第145章 ひとつの布団
扉を開いた彼はバスタオルを肩に掛けてまだ水気を含んだ長髪をそのままにしていた
それだけでも色を含む彼だが普段一緒に生活しているので少し免疫が出来ていた
しかし今の彼が身を包んでいるのは浴衣で
少し着崩れた襟元からは逞しい胸板が見えて扉を開く、という動作から前屈みに成った事で美しい腹筋まで見て取れた
前屈みで扉を開く体勢はなんだか壁ドンされている様な体勢に思えて私の乙女心に更に追い討ちを掛ける
彼の逞しい筋肉の前に固まる私
「早く入りなよ」
呆れた声を上げた彼を仰ぎ見ると
私の視線が浴衣の中を捉えていた事がバレバレだったらしく自身の浴衣を覗き見ていて頬はみるみる熱くなり無言のまま室内へ入った
「グラス探したけどこれしか無かった」
「あ、ありがとうございます……」
湯飲みに注がれる赤ワインを只凝視する
ワイン瓶を持つ彼の指を綺麗だと思えば先程の光景が再び浮かび脳がクラッシュしそうに成る
…………大体考えてみれば浴衣とは何と破廉恥な衣服だろう……
「乾杯」
「乾杯です」
帯を解いてしまえば中は下着だけ………そんなの……とんでもなく破廉恥だ!!!!
………彼が浴衣を着ている時点で兵器にも匹敵する殺傷能力があると私は思う
彼が大浴場に出向いていたならパニックが起こるに違いないなんて一人納得して頷いていると
「心此処に有らずだね。」
なんて言われてしまった
「えっ!いや、浴衣について考えてしまって……」
「浴衣……何?」
やっとまともに交わった視線
気が抜けた様に細められた瞳がセクシーでドキリと心臓が脈打つ
「いや………それは………」
考えていた内容をそのまま話してしまえばド変態だと思われてしまうだろう……
言い淀む私に彼は溜息を付いた
そして、先程からまともに話していない事に気付く
彼は普段と変わらず接してくれるのに私は彼に不愉快な思いをさせているのかもしれない………
不安が頭を過れば先程迄渦巻いていた邪な考えは何処かに吹き飛んでいて
「まぁ、浴衣の事は良いじゃないですか!それより今日何処が楽しかったですか?」
なんて話し出した私は大浴場での出来事や今日撮った写真を二人眺めながら会話を弾ませた