第145章 ひとつの布団
彼の言葉を私なりに解釈するに"ツアー観光は続ける、しかし二人のペースで進みたい"という事なのでは無いかと思ったのだ
つまり彼は私と二人で観光する事に重きを置いているという事で……
(………イルミさんも私と思い出作ろうとしてくれてるんかな……)
この旅行を楽しもうと意気込んでいたのは私だけじゃなく彼もまた同じ気持ちなのだと思うと胸は切なくぎゅっとした
近くにツアー客の雑踏を聞きながら少し離れて歩く私と彼
今歩いている場所は豪商◯船氏によって明治35年に造園された元別荘……らしいのだが何にせよ広い……
辺りはまるで森林の様な光景で雪を被ったしらかばの木々が茂り目に映る色は白や茶色と至ってシンプルだ
「……別荘にこんなに敷地いりませんよね」
私の素直な感想に
「俺の家の敷地よりは随分と小ぢんまりしているけど、別荘ならこれくらいで丁度良いんじゃない?」
なんて事も無さ気に返されてしまった
……忘れていた………彼のご実家の敷地にはやたらと大きな山まであるのだった………
アニメ放送されていた彼のご実家を思い返して桁違いの金持ちなのは想像出来るが果たしてどれだけ大きな敷地を所有しているのかと想像してみたが東京ドーム一個分もピンと来ない私には巧く想像出来ずモヤモヤしていると
「………それよりさ、Uターンして戻るって言ってたしこの辺で時間潰さない?」
「……え?」
思わぬ提案に間抜けな声を上げてしまった
先程ツアー客の動向は見失わないなんて話していたのに……とも思うが確かにガイドさんはUターンすると説明していた事を思い出す
「それとも見たい?日本庭園」
くりっと首を傾げた彼はじっと私の様子を伺っていて
「……イルミさんは見なくて良いんですか……?」
真っ直ぐ視線を交えれば
「日本庭園は京都や有馬で見たし。それより雪の方が見たい」
なんて無表情に言われてしまった
歴史的な建造物が好きな傾向にある彼が雪の方が見たいなんて可愛い以外の何者でも無くて
私は彼と一緒に立ち止まった
どんどん離れて行くツアー客、人の気配はあっという間に消えていて
特徴的な白い木々が立ち並ぶ小道で私達は二人きりに成った