第144章 彼と私のツアー旅行
「………どうして。今は観光の時間でしょ」
「そうですけど、ツアーやから皆で回るんです」
「…………。」
彼は私の言葉を聞くと辺りを軽く見渡して溜息を付いた後に
「知らない奴と観光って鬱陶しいね。」
なんてまぁまぁな声量で言うものだから周りにいた人々の視線が痛い程に刺さった
背中を伝う汗は冷や汗というやつだろう………
「しーっ!!!そんなん言うたってツアーなんですから仕方ないでしょ!ほら、ガイドさんに着いて行くんです!」
「はいはい。」
慌てふためき焦り散らす私とは裏腹に落ち着き払った彼はまた溜息を付いた
溜息を付きたいのは私の方だ!と思ったが今以上に騒ぐと悪目立ちも良い所なので言葉にはしなかった
岩肌に設置されたマリア像とベル◯デッカという少女のお話しや修道院での生活や決まり等、ガイドさんの説明は興味深いものばかりだった
俗世での生活を断ち、あの壁の中で清らかに生活する女性達が何を考え、何を思っているのか
想像しても俗世にどっぷりな私には解らなくて何だか不思議な気持ちに成ったりした
ガイドさんから自由行動を告げられてツアー客が各々散って行く中彼は建物を見上げて静かに佇んでいた
「イルミさん?」
呼び掛けにゆっくりと振り向いた彼に息が止まる
きめ細かな白い肌にはっきりとした輪郭の瞳、すっきりとした鼻筋に薄く色付いた唇
サラサラと流れて輝く黒髪だけが時の流れを感じさせる様に全てが止まって見えた
「何?」
それはきっと彼の醸し出す潔癖な程の美しさと静寂に建つ修道院の雰囲気が驚く程に似合っているからで
彼が此所に立っている事に違和感のひとつも無かったからだった
「………沙夜子?」
彼が私に歩み寄り名を呼ぶ事の方が不思議で成らない程に彼の美貌に見惚れた私は暫く固まった後に彼の写真を撮りまくった
どれもこれも称賛に値する出来映えに大変満足な私だったが
そのおかげで楽しみにしていた売店に寄る時間が無くなり
彼は全てを見て回れ無かった事にバス内で文句を吐いた
「もうバス降りようよ。俺ツアー嫌い。」
「しーっ!!!」
やはり彼に協調性は皆無である
(……先が思いやられる………)
なんて考えながら眺めた窓の外は銀世界だった