第143章 旅立つ
乗り込む際私に窓際を譲ってくれたのは乗り物酔いを気遣う彼の優しさなのだろうが
興味津々で窓の外を伺う彼は動物的な可愛さがあり内心大興奮しながらも冷静に席を代わろうかと提案したのだが
「沙夜子が体調崩すと大変でしょ」
と、やんわりお断りされてしまった
………確かに。
私が乗り物酔いでバスのポケットに用意されたエチケット袋を使う羽目に成ればバス中の旅仲間から批判的な眼差しを受けるだろう………
なにより彼の前で吐きたくは無い。
私は彼の言葉に甘んじる事にした
それに、其れだけ彼が私を気遣ってくれているという事実が単純に嬉しかった
天気は快晴、山間を走るバスの直ぐ側には深く積もった雪が何処までも続いていて自身の住む土地との違いに感激してしまう
雪を積もらせた木々が太陽を反射して美しく淡い空の青に映える様を私達は飽きる事無く眺めた
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ひとつ目の観光スポット"金◯赤レンガ倉庫"へ到着し、集合時間迄自由行動だ
バスから降りると名前の通り赤レンガ造りの倉庫が並びレトロな雰囲気漂う一帯に自然と胸が踊り視線は目まぐるしく動く
まだ午前中にも関わらず沢山の観光客で賑わいを見せる通りは活気に溢れており、旅行にやって来たのだと染々実感する
「沙夜子」
「はい!」
辺りを見渡すだけでワクワクしていた私の手を彼が掬って絡める
途端にキンと冷えた指先は彼の温もりに包まれ
「何処が見たい?」
なんて私を覗き込んだ彼は優しい声色で問うので息が詰まる程キュンとして言葉が出なくなった
「……沙夜子?」
「……っ……はい、」
「どうしたの?酔った?」
「……いえ!……あの……は、はこだて明治館に……」
「あそこだね。」
精一杯片言で話す私の様子を伺っていた彼はゆっくりと歩み始めて
ドキドキと高鳴る鼓動は楽しい気持ちと合わさって頬が熱くなる
彼はそんな私を横目に見てクスリと笑みを溢した
「………なんで笑うんですか……」
「別に。」
交わした他愛ない会話は明るく弾んで
この旅はきっと良い物に成る!なんて思ったりした