第140章 手のひら返しの虫歯
「……歯医者はまだ開いてないよね」
彼はふぅと息を吐きながらガシガシと頭を掻いた後にスマホを操作し始めた
「…………痛い………」
暫く沈黙していた彼はゆっくりと立ち上がると
「救急で行ける歯医者見付けたから行くよ」
「え………」
「良いから早く着替えて。連れて行ってあげるから」
「……うぅ……っ……」
痛みで生理的な涙が流れ出す程歯が痛むなんて今迄経験が無かった為に歯医者に救急があるなんて知らなかった
彼の言葉で希望の活路を見出だす
身支度を整えるとコートを手渡されて涙を拭われ
「行くよ」
「イルミさん優しい……うぅっ……ありがとう……」
「はいはい。」
彼が運転する自転車に揺られてやって来た救急受付の歯医者
私が身支度を整えている間に彼が連絡をしてくれていた様でスムーズに案内される
私は急に怖くなって不安から後ろを振り返れば彼は長椅子に座って手を振っていてパタンと閉じた扉に消えた
歯医者特有の消毒液の匂いにドキドキ高鳴る胸は楽しいからでは無く、不安からで
とにかく腫れて痛い旨を伝えれば白衣にマスクで顔を隠した歯医者さんが椅子を倒した
ギュイーンと凄まじい音を経てるドリルがゆっくり口の中に入る
(…………え、ヤバい………怖い………)
歯医者は子供じゃ無くても怖い
最後に歯医者に行ったのは10歳頃の記憶で実は大人に成ってから歯医者に来るのは初めてだった