第140章 手のひら返しの虫歯
12月12日深夜2時頃
私は布団の中で静かに身悶えていた
彼の寝姿を盗み見て身悶えているなんていう不気味な事はしていない
何を隠そう………私は虫歯なのだ
別に隠さなくても良いのだが独断発表する事でも無い。
一週間程前から奥歯が時折ズキリと痛む事には気付いていたが常に歯の事ばかり考えている訳でも無いので優秀な頭脳を持つ私はすっかり忘れていた
しかし虫歯菌はじわりじわりと私のエナメル質を侵食し数日前よりも格段に強い痛みを与え、ハッキリと虫歯なのだと自覚させる
…………まぁ……乗り切れない程では無い
30分程前にのんだ鎮痛剤が徐々に効き目を発揮し始めたのを良い事に私は安眠に付いた
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翌日
居酒屋のアルバイトを済ませた私はまさに満身創痍
鎮痛剤をはね除ける程の虫歯の痛みに襲われていてとにかく辛いのだ
業務員用の扉から外へ出れば彼はゆっくりと此方に歩みを進めてくれる
普段なら私は早歩き、もしくは駆け寄って行くのだが歯に響きそうな気がして慎重に歩き彼を見上げた
途端に大きな瞳が更に大きく見開かれ彼はポツリと漏らした
「何その顔、殴られたの?」
それもその筈虫歯は歯茎を腫らした上に更に頬が大きく腫れ上がり私の輪郭は普段とは全く異なる形に成っているだろう
「違います。虫歯です」
私が答えれば
「ミュータンス菌か」
なんて聞き覚えの無い事を呟かれてしまった
「ミュー?」
「ミュータンス菌。代表的な虫歯菌の名称」
「…………へー……」
正直どうでも良い。虫歯菌の名前を知った所で仲良く共存なんて出来ないし私は直ちにお立ち去り頂きたいのだ
大体滅茶苦茶痛い今、虫歯菌の名称という情報は道に落ちている軍手よりもどうでも良かった