第139章 イルミネーションコミュニケーション
思わせ振りな言葉に少し期待してしまった自分が恥ずかしいがそれよりも彼の言動が全く理解出来なかった
「コミュニケーションですか……ね?愛情表現とか」
「成る程ね。人間には無駄が多いね」
「コミュニケーションとか愛情表現って無駄ですか……」
「そうは言ってない。……只そこから生まれる心が揺らぐ感覚は色々な意志を狂わせると思わない?」
「……まぁ……」
会話は的を得ないまま終わり私達は観覧車を降りた
隣の彼が言いたかった事はつまりキスをする事で心が、気持ちが揺れて掻き乱されるという事だろうか
そして彼もそう感じるという事……
無表情で淡白な彼が垣間見せたのは実に人間味溢れる一面だった
広場に向かって歩く彼に冷えた手が然り気無く掬われる
「手を繋ぐのもハグもコミュニケーションやと思いませんか?」
繋がれた手に視線を落としながら言えば
「そうかもしれないね。」
彼はぼんやり呟いた後に白い息を残して
「所詮俺も普通の男と何ら変わらないって事に気が付いた時は少し驚いたけど気が付いてしまったんだからどうしようも無いよね」
自嘲気味に表情を歪めた彼の横顔
つまり彼は私と居ると心が乱される……と言いたいのだろうか……
私はかける言葉が見つからず彼を引っ張りキラキラ輝く光の方向へ走った
言葉の真意が解らない
彼が私に伝えたい事が解らない
キスなんてしなくても言葉を交わすだけで心は掻き乱され色々な気持ちが揺れる
彼はその事に気が付いていないのだろうか
引っ張ってイルミネーションで飾られた広場迄やって来れば沢山のカップルや家族連れで賑わっていて辺りは楽し気な雰囲気に包まれていた
光のゲートを潜ればはっきりと見える表情
彼の瞳は何かの感情に揺れていて先程の言葉を後悔しているかの様に見えた
「キラキラ綺麗ですね!」
私はそれに気付かないふりをして笑顔を向けたが潤む視界に慌てて俯く
何が悲しいとも解らずに溢れる涙
今度は彼が其れに気付かないふりをした
私達はその後もイルミネーションを眺めて
「イルミさんとイルミネーション!」
「下らない。」
なんて何時もの調子で会話を交わせる様になった頃やっと帰路に付いたのだった