第136章 歌のヒトコマ
目新しい物を見て回った彼は早速それらに興味を失い安っぽいソファーに体重を預けて長い脚を組んだ
有無を言わさず引っ張って来てしまった事に今更に成って冷や汗をかく
いくら彼が何も言わないからと言って闇雲にカラオケへ連れ込むなんて横暴だ
彼は仕事を済ませて家で眠る筈だったのに引っ張られるままカラオケで酒を飲む事になった………考えただけで自身の傍若無人さに震える
「…………いきなりすみません………嫌でしたよね………。」
「嫌とかいう以前の問題かな」
おずおずと謝罪すると彼は設置されたテレビ画面を見ながら言った
確かにそうだ
そもそも彼は此所がどういった場所で何をする所なのかも理解していない
「えっと………カラオケです……」
「カラオケ」
繰り返す様に呟いた彼は暫く考える素振りを見せた後に閃いた顔を向けて
「確か大声で罵り合う場所だっけ」
「怖い!違う!!」
「違うの?」
私の即座の否定に彼は思考を巡らせる様に顎に手を添えて更々何も考えていなさそうに単調な声色で うーん と唸った
「えっと、カラオケは歌を歌う所です」
運ばれて来たグラスをぶつけて乾杯しながら伝えれば
「あーそうだったね。沙夜子が酔っぱらうと行きたくなる場所だ」
と言われてしまった
あながち間違いでは無い。寧ろ正解だが、今の私は酔っぱらいでは無い
「今日は酔っぱらって来たくなったんじゃなくイルミさんと来たかったんです」
「ふーん。」
独断興味は無さそうだが表情には呆れや拒否が含まれておらず胸を撫で下ろす