第135章 何気無い日曜日
針先に触れない様に手に取ってみると此方はまるで髪の毛でも手にした様に掴んでいる感覚すら無かった
「これ軽すぎて風で飛びません……?」
「…………。」
どれだけ軽くても彼はきっとキッチリ的に当てるのだろうと思うと感心してしまう
無くすと叱られる事間違い無しなので直ぐ様元に戻して違う収納ケースに手を伸ばそうとしてピシリと身体が動かなくなった
「っ……?!」
痛みも無く何の前触れも無いままに自由が利かなくなった身体に驚いて絶句していると
伸ばしていた腕の先にある収納ケースを彼は実に悠長な所作で手に取った
「触って良いって言ったのは最初の針だけなんだけど」
普段より低く言葉を発した彼は動けない私の顔を覗き込み、視線が交わった事で心臓がドキリと跳ね上がった
細められた瞳、わざとらしく距離を詰めた彼は私を射抜いて離さず
至近距離に迫る端正な顔立ちにドキドキと早まる鼓動
「沙夜子、此所にあるのは人殺しの道具なんだよ?許可無く触れれば神経毒で即死なんて事も有り得る訳だけど……死にたいの?」
彼の言葉はもっともで、私は自身の軽率な行動に対して謝罪した
幸い口だけは動いた
「解ったなら次からは決して針に触れない事。………良いね?」
「は、はい………すみません」
私の言葉を聞いた彼はふぅ、と息を吐くと私から離れて針のお手入れを再開した
………のだが………
(ちょっと待って………私そのままやねんけど………)
動けないのは100%彼の仕業だろう事は馬鹿な私でも理解している
しかしながらお説教が終わった後にも自由にしてもらえないなんて思いもしなかった
真剣な眼差しで針に向き合う彼の横顔
お説教をされたばかりで横槍をさすのは如何な物かと考える
彼が不機嫌になると厄介な事を私は知っている
彼のお説教は長い上にねちっこい………
今までのお説教もそうだったし私がいらない事を仕出かせば彼は然り気無くキッチリと仕返しをするのだ
という事はつまり……
(…………これはまだお説教終わって無いって事ですね……イルミ様……)
開きかけていた口を慌てて閉じる
………危なかった………
ここで抗議の声を上げていたらイルミ様スーパーお説教タイムに突入する所だった………。