第134章 迷子のクリスマスツリー
綺麗なイルミネーションが以前訪れた遊園地の記憶を呼び起こし
大きな瞳で光を見詰める彼の儚く消え入りそうな横顔を思い出させる
その時とは比べ物に成らない程増えた思い出、重ねた日常、溢れる想い
全てが私を悲しくさせた
辺りから沢山の視線が刺さる中私は静かに泣き声を殺す
そんな時だった
冷えた身体が背後から温かな感覚に包まれた
サラサラと風に揺られて頬を撫でた黒い髪
ぎゅっと力強く優しく回された腕
「沙夜子、やっと見付けた。」
大好きな単調な声に私は只涙を流した
目から零れれば彼の長い指がすくい上げてくれる
「勝手に居なくなってごめん。」
と謝罪した彼は私の首に自身のマフラーを巻いた
彼の体温が移った其れは温かく大好きな香りが優しく私を包んだ
私の手を握って「冷えてる」と言った彼は近くのベンチへ腰かけた
私も手を引かれて隣へ腰かける
やっと視界に捉えた彼の表情は象徴的な大きな瞳が何処か心配気に揺れていて私は流れる涙をそのままに目一杯の笑みを向けた
「もう!何処行ってたんですか!」
正直そんな事はもうどうでも良かったけれど彼が消えた理由に笑ってしまった
すっかり涙は引っ込んで鼻を啜る
私の低い鼻は泣いたのと寒さとできっと真っ赤だろう
しっかりと指を絡められた手を盗み見る
大好きな彼の手
ゆっくりと視線を上げれば彼は遠くクリスマスツリーを眺めて何時かの様に大きな瞳にキラキラを閉じ込めていた
儚く消え入りそうな横顔は息を飲む程美しく
一際強く吹いた風に誘われる様に彼はゆっくりと此方を向いて
「綺麗だね」
と言うので私は思わず彼に抱き付いた
解ってる
彼はイルミネーションを綺麗だと言ったのだ
なのに何故だか自分に言われた様な気がしてまた泣き出してしまいそうだったから
「お腹空きました」
「俺も」
しっかりと私を抱き止めてくれた彼はクスリと笑った