第132章 夜道の気配
呼び掛ければ答えてくれる彼の声に安堵したのも一瞬でバタバタと室内を歩く音に跳ねた肩
「っ………イルミさ……『沙夜子落ち着いて。直ぐ行くから』
ドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!
彼の声を遮る様にトイレの扉を叩く音は大きく響き木製の扉をガタガタと揺らした
「出て来い!!!殺したる!!!」
甲高い叫び声の後に何かで扉を削るガリガリという音が耳に届き後ろに後退るも直ぐに壁に行き着く
「………イ……イルミさ…『ただいま。』
電話口と同時に直ぐ傍で聞こえる声
そしてバタンと大きな音がして遅れてカランと金属音が鳴った
小さな空間でへたり込んだ私の元へは控え目なノックの音が届き
「沙夜子、出ておいで」
彼の言葉に震える手で扉を開けば途端に視界が涙で潤んで足腰立たない私を彼はしっかりと抱き締めてくれた
ふんわり香る彼の香りと伝わる体温に溢れ出す涙
「もう大丈夫だよ。怖かったね」
何処までも優しい声にぎゅっとしがみつけば彼は私を包み込む様に抱き締め返して、あやす様に背中を撫でた
________"
只安堵の涙を流して震えていた私だが彼が何時までもあやしてくれた甲斐があり随分と落ち着いた頃
目に付いたのは床に転がった女性の姿
そしてその傍にはキッチンから持ち出された包丁と木片
トイレの扉は引っ掻いた様に無数の傷を残していて
私は途端に血の気が引いた
カサリと音を経てて拾われた袋を眺めた彼は
「お説教は後だ、まず何があったのか話せる?」
と落ち着いた声色で言った
私はありのまま経緯を話した後に女性をチラリと見遣る
「あの………死んでませんよね……?」
「仮死状態」
「仮死?!」
「目覚めさせられるから平気だよ。沙夜子に近付けない様に操作針を仕込んだ。後は扉の前に転がせば此所に居た理由も解らずに帰って行くだろうよ」
「………はい………」
「………俺のせいで危険な目に合わせちゃったみたいで悪かったよ。」
ポツリと言った彼を真っ直ぐ見遣ると頭を緩く掻いた彼の視線と交わった