第132章 夜道の気配
私が進めば気配も進み、止まれば立ち止まる
気のせいか……とも思うが振り返っても姿を捉えられず込み上げるのは恐怖だった
生きてる人間の方が怖い、と彼は言った
私は今其れを体感している
僅かに震える足、バクバクと早い心臓の音は耳に煩く吐く息は短く切れる
………これじゃあオバケの方が余程ましだ……
なんて思ったのは生まれて初めてだった。
普段気にしていないが閑静な住宅街は人気が無く走り出した自身の足音と買い物袋が揺れる音が辺りに響く中
背後からもう1つ走る足音が聞こえる
間違い無い。私を追っていると確信した途端に全身を恐怖が支配した
アパートが見えても安堵は出来ず追い付かれては終わりだと思うと自身の足が随分遅く感じて焦りが浮かぶ
其れでも階段を懸命に駆け上がり鍵を開こうとするのだが震えた手は焦りから巧く鍵穴に刺さらない
次いでカンカンと階段を駆け上がる音は心音と合わさって煩く響き
やっと開いた扉に滑り込む様に室内へ入り素早く鍵を締めようと引いた瞬間、扉の間に挟まれた足により阻まれて一気に扉が開け放たれた
「………っ………」
視界に映ったストーカーの姿は想像と違い小柄な女性の姿だった
お互い向き合い荒い息を吐き無言で見詰め合っている異様な現状に頭は付いて行かず真っ白に成る
そんな中口を開いたのはどう考えたって見たことの無い見知らぬ女性だった
「ここ彼の家やんな?何であんたみたいなブスが一緒に住んでる訳……?」