第132章 夜道の気配
11月のある日
私は一人酔いどれていた
テレビも付けずスマホで流している音楽を熱唱しながらボジョレー・ヌーボーを煽っているのだ
毎年楽しみにしていたボジョレーは今年最悪の不作なのだそうだが
私の様な者は何だって良い
ちゃぶ台には自身が傾けるグラスの他に空のワイングラスが二つ
その前にはイルにゃんと有馬温泉で彼がプレゼントしてくれた羊のぬいぐるみが陣取りあたかも私とぬいぐるみ達でちゃぶ台を囲んでいる様にも見える
私の部屋は彼の目が届かないと成れば途端にとち狂った空間へと変貌を遂げる
そもそも何故私がこんな事に成っているかと言うと
何時も通りコールセンターから帰宅して普段より豪勢な夕飯を作った
帰路の途中に購入したボジョレー・ヌーボーを彼と二人楽しむ為だったのだが
無機質に鳴ったスマホの通話
大好きな彼の声に頬を緩ませていれば『前田に頼まれて帰りが23時を過ぎるから先に食べていて』なんて言われてしまった