第130章 腰は大切
私のトイレ迄の道のりを介助してくれた彼は今、朝食の準備中でキッチンに立っている
本来なら私がキッチンに立ち朝食が出来た頃に彼を起こす筈だったのに……なんて考えながらテレビから流れるラジオ体操を見ている
正直全く興味は無い。
やたらに広い河川敷の様な場所で大勢の人が一斉にラジオ体操をしている風景
この映像に需要があるのか、果たして何が目的なのか、私には全く理解出来ないが何故見ているかと言うとリモコンがちゃぶ台の端に置いてありどう足掻いても届かないのだ
彼が配慮で付けてくれたテレビなので我が儘は言いたくない
テレビからはラジオ体操第二の声が聞こえる中
私は目を開いているだけで全くテレビを見ずにぼーっとしていたのだが
「これ面白いの?」
突然声を掛けられてビクッと肩が跳ねた拍子に腰に凄まじい激痛が走る
私は息を詰まらせながら首を振るのが精一杯だったのだが彼は「じゃあチャンネル変えるね」と単調に言った
常人とは違い痛みに強い彼にはギックリ腰の痛みは解らないのかもしれない
知識としては知っていても自身が体感するのは違う……と、実際に成って思う
今迄ギックリ腰で動けないなんて台詞を人生の中で何度か聞いたがまさか本当に此処まで動けないとは思いもしなかった
高校生のアルバイト時代、ギックリ腰で当日欠勤をした山内さんに対して大袈裟だなぁーなんて思っていたが今更に成って反省している
山内さんは大袈裟でも何でも無く激痛と戦っていたのだ……
(………ごめんね山内さん。大袈裟とか思って……私もギックリデビューしました………。)
心の中でそんな事を考えていると
「はい、出来たよ」
顔の目の前にズイッとお皿を突き出されて目を丸くする
彼の手から受け取った皿にはサンドイッチが乗っていたのだ
「只のトーストで良かったのに!」
「俺が食べたかったから。……それに動きが制限されてる今には片手で食べられる物が良いと思って」
朝食の事迄気遣ってくれるとは思いもしなかった私は感激の余りニヤニヤが止まらない