第129章 缶の箱と段ボール
元彼との思い出は本当に幸せな物だった。
感謝を胸に抱き手放した缶はゴトリと音を立てて袋に消えた
本当に幸せな時間を過ごせた。悔いは無い。あの時があったから今の私があるのだ
しっかりと気持ちが清算できたからこそ手放せた
今私は満たされている
大好きな彼と一つ屋根の下暮らしていて彼の気の抜けた表情を間近で見ていて
きっと此の世界で彼を一番知っている
衣食住を共にしている事自体奇跡で
積み重ねた季節は短いながら其の月日の内容は濃い。
その中で増えた段ボールには彼の私物
気が付けば私は其れを先程の缶の箱と重ねていた
彼が居なくなってこの部屋には彼の存在した痕跡だけが残る
私はきっと彼の私物を手放す事は出来なくて
その内見ているのも辛くなって
思い出を精一杯詰め込んだ段ボールを押し入れの奥に仕舞い込むのだろう
そしてあの缶の箱のように何時か忘れて………
………忘れる……?
そんな事が果たして可能だろうか
彼が初めて部屋に来た冬
自転車に乗った
ドリルに勤しむ真剣な眼差し
スケートが上手だった
そんな思い出の中には些細な事が多すぎる
丸まって眠る彼は朝が弱い。足音がしない。テレビが好きでお気に入りのニュースを欠かさない。お箸は両手使いで実はお肉が好き。お酒はウイスキーが好き。扉を開く音が静かで、お風呂はいつも30分。食後と風呂上がりは必ずホットコーヒーを飲んでたまに窓から空を眺めていて……………
私に彼を忘れる事等出来るのだろうか
考えれば考える程途方も無く悲しく成った