第129章 缶の箱と段ボール
実際、何度か言われた台詞だった
両親、親友、友人、アルバイト先の先輩。自身に自覚は無いが其だけ言われるとそうなんだろうな、くらいには自覚する様になった
「日記、さ、……幼い沙夜子を想像して聞いてたんだけどやっぱり沙夜子は昔から沙夜子だね」
彼は何処か穏やかに言った
日記の内容は小学生らしく馬鹿で間抜けだったが彼からすれば私は昔から何ら変わらないらしい
「……はぁ、……まぁ、私ですからね」
「……昔の沙夜子に会ったら面白いだろうね」
複雑な気持ちで発した言葉にクスリと笑みを落とした彼に簡単に跳ねる心臓を意識しない様に見ていないフリをした
彼の言葉から昔の私に会う事を想像したという事が伺えて無機質で何を考えているのか解らない彼だが淡々と手を動かしながらも彼の頭の中には私がいたのだと思うと嬉しくて頬が緩んだ
呑気に鼻歌でも歌ってしまいそうに浮かれた気分の私だが、ふと彼の動きが止まっている事に気が付いて視線を遣ると見慣れない箱を開いて中を繁々と眺めていた
また無断で開いたな……なんて思いながら身を乗り出して中を覗き見ると茶色い缶の箱の中には寂しく転がった指輪とプリクラ、そして一枚の手紙
私は途端に箱の中身を認識した
(……元彼の品々ッ!!!!!!!)
……そう……こんな私にも元彼は存在していて五年付き合って将来を誓った過去があった
元彼とのペアリング
貰った日は嬉しくて飛び上がって喜んだ
五年の歳月を物語るプリクラには若く幼い自身が幸せそうに笑っていて一通だけ残していた手紙は"結婚しような"と書かれた文章が嬉しかった為だった