第129章 缶の箱と段ボール
私はオタクだ。大好きなキャラクターを思わず描いてしまう事はあるあるでは無いだろうか
……しかし、其れをまさかご本人様に見られるなんて夢にも思っていなかった……
次々捲られるページにはぎっしり彼のイラストばかり続く中、彼の動きが停止する
「………?」
既に変な汗をかいている私だが何か不味かっただろうかと開いたノートを覗き見れば先程迄なんて比ではない汗がどっと溢れて絶句してしまった
ノートに描かれていたイラストはタキシード姿の彼、その隣にウェディングドレス姿の私………
そして短い文章"沙夜子=ゾルディックになりました♪"
彼は其れをじっと眺めていて確実に文章迄読まれてしまっているだろう事は明白で
只でさえ痛々しい妄想落書き。其れに追い討ちをかける様に書かれた痛々しい文章は私の精神を完璧に攻撃していた
「………っ……次行きましょ!」
友人にだって見られてしまえば痛々しくいたたまれないイラストを本人に目撃された私は目も当てられないくらい悲惨な顔をしているだろう
必死に言葉を振り絞り彼からノートを取り上げると彼はふぅっと息を吐いただけで何も言わなかった
嫌な沈黙が広がる
彼は元々お喋りでは無いがこういう時くらい何かコメントを頂けたら……なんて思ってしまうが、気持ち悪い。なんて言われてしまえばアパートの窓を突き破って逃げ出したくなるので無言を貫いてくれるなら其れで良い……
気まずさを払拭する為に次いで開いた苺柄のノートは小学生の頃の日記だった
汚い字で綴られる日々を鮮明に思い出し家族で外出した話や友人と遊んだ話、鳥の巣を見つけたなんて些細な事迄書かれた日記に先程迄の気まずさはすっかり無くなり懐かしさだけが広がった
些細な昔話を続ける私を止めもせず彼は只相槌をうってくれていた
日記を読み終わる頃には随分時間が経っていて私達は慌ただしくゲームが入ったカゴやアニメグッズを片付けていたのだが
彼はふと顔を上げて単調に言った
「………沙夜子は感受性が豊かだよね。」
「……あー言われるかもしれません」