第126章 平凡なケーキ
11月のある日
仕事から帰宅してゆっくりと夕飯の準備をする
居酒屋のアルバイトが無い日は時間に余裕があるので夕飯も出来る限り丁寧に作っている
水道から流れる水は手の感覚を奪いみるみる指先が痛くなった
真夏には感じない感覚
私はたった其れだけで悲しくて胸が苦しくなる
彼が突然部屋に現れたあの日最低気温はマイナスにも成る日に開け放たれた玄関からは耳が痛くなる様な風が吹いていた
別れが近付いている
確実にそう感じるのに只漠然としていて現実味を帯びないのは其れだけ受け入れ難い事実だからだろう
グラタン、ミネストローネ、和風パスタが出来上がりちゃぶ台に並ぶ頃、彼は冷たい外気を引き連れて帰宅した
「ただいま」
「お帰りなさい!今日めっちゃ寒いですよね……」
「俺は平気だけど、そうだね。」
「ご飯にしますか?……其れともご飯にしますか?……其れとも……ご、は、ん?」
「……言いたいだけでしょ。」
「はい。あ、今日は力作ですよ!暖かい内にと思って」
「うん。」
ちゃぶ台をチラリと見遣った後に手早くお弁当を洗った彼は素早く座椅子に付いた
すっかり使い古している座椅子はギシリと鳴ってその音すらも彼の生活音に成っている
ズキズキと胸が痛む
「いただきます」
「いただきます!」