第125章 俺と彼女
「イルミさんが座ってる!」
「…………まんまだね。」
自身が只座っている、其れだけで幸せそうな声を上げる彼女に胸があたたかく成る
「………ほら、犬だよ」
「ほんまや!ゴールデンですね!」
テレビ画面に映った映像を眺める彼女の横顔を盗み見る
窓から吹き込む風を心地好く感じた
_________"
「祝杯です!」
「………。」
と言って酒を二人煽り夕飯を済ませた後も彼女は朝からずっと同じ調子で
「イルミさんいますか!」
「………トイレの中以外何処に行けるの。」
トイレの扉前から声がして溜息を付く
自身が彼女の元に帰らなかったのはたった数日の事だった
一週間の期間を勝手に切り上げて戻ったにも関わらず彼女は一日中自身の傍を離れなくなった
自身を見上げて浮かべる笑顔は幸福を体現している様にすら見える
ぴったり引っ付く彼女を鬱陶しいとは思わず、その真逆で悪い気は全くしないがこの先自身が居なくなった世界で生きて行けるのか……考えただけで漠然と目の前が暗くなった
食事も睡眠もままならないまま衰弱し、最悪自ら命を絶つ事も有り得るとすら思う
其だけ愛されていると思う反面本来此の世界に存在し得無い自身の存在が彼女の人生を狂わせるリスクを孕んでいる
そもそも出会うべきでは無かったと後悔した
(…………後悔なんてしたってもう十分に沙夜子の人生を侵食した後だけど)
今更彼女から離れても自身が此の世界に存在する限り彼女は待ち続けるだろう
二人の時間を共有出来る僅かな時間にお互い同じ気持ちを抱いたまま離れるなんて馬鹿馬鹿しい
一週間という期間すら持たずに帰って来た自身も彼女と同じだと思った。
彼女が存在しない世界で景色はどのように映るのだろう
自身が彼女に出来る事は最後迄彼女の傍にいる事、そして胸一杯に膨らんだ気持ちを伝え無い事。
もう後には戻れないのだから……