第124章 輝く風景
前田は昨夜同様奢ると言って次々席を外す流れを無視し、尚も酒を飲んでいた
あのむさ苦しい部屋に帰りたく無い自身も其れに乗っかって酒を飲んでいる
前田は随分前から目が座っていてどうでも良い話しを繰り返していた
(……………暇。)
そんな事を思っていたのだが「聞いているのか?」と聞かれて今以上に絡まれても面倒なのでとりあえず頷く
「しかし無口やなぁ~!」
「………。」
そんな事を言った前田だが自身が無口な事とは関係無く
何故か身の上話しを始めた
「実は俺は神社の跡取り息子やったんや!」
ドキュメンタリーを見て神社にも家の様な跡取り問題がある事は知っていたが何故其の跡取りがこんな場所に居るのか疑問が浮かび気が付けば前田の話しを真剣に聞いていた
自身の人生が無く家の犠牲になりたく無かった前田は両親と喧嘩して家を飛び出したそうだ
飛び出した家には少し離れた弟がいて、その弟が跡を継いだ事を最近知ったらしい
「ずっと帰ってへんし、弟に押し付けたから帰るのは正直怖かった……」
しかし勇気を出して帰省してみれば久しぶりに家族と再会し、無事に和解。弟には新しい家族もおり、案外幸せそうだったとグラスを傾けながら話した
「でもな、弟ほんまは医者になりたかったんやって。」
「………。」
「俺が逃げたから押し付けた事に変わり無い。けどな……兄貴がおらんくてもちゃんとやってるでって良い笑顔で笑ってん」
前田は懐かしむ様に瞳を細め、心底安堵している様に見えた
「その時にやっと初めて好きに生きて来て良かったって思えた。」
「良かったね。」
「何がほんまの幸せなんやろな………それは解らんけど、まぁ神崎も若いんやから好きに生きや!」
「うん」
「よし!……まだ飲むか!」
「飲むなら付き合うよ。」
「じゃあお代わりや!」
前田の笑い皺が細められた瞳でより一層深くなる