第123章 足りない景色
今日こそは帰って来るかもしれない……なんて事を昨日も考えたが今も変わらず考えてしまう
無意識に作った二人分の夕飯はちゃぶ台に並べてみると彼の大好物ばかりだった
食欲が起きずラップをかけてぼんやりテレビを見ているといつの間にか小鳥の囀ずりが朝を知らせていた
気分転換にと開いた窓からキンと冷たい冬の匂いが室内に流れて私の髪を揺らした
………会いたい
只彼に会いたい。
口に出さないのは寂しさを助長させてしまうからで本当は叫び出したい程彼に会いたかった
転がっていたイルにゃんを手繰り寄せて抱き締めると何処か苦しそうに胸の中で歪んだ
彼は何処で何をしているのだろうか……只無事であってほしい
何かあったのではと考えるだけで胸が張り裂けそうにズキズキと痛む
そんな時だった
ガチャガチャと鍵を開く音が耳に届き
私は呆然と立ち上がる
イルにゃんは力無く離した手から足元に転がった
ゆっくりと開いた扉から現れたのは汚れた作業着姿の彼だった
「ただいま」
単調な声は私がずっと聞きたかった愛しい物で「お帰りなさい」は言葉に成らなかった
次々溢れる涙を其のままに駆け寄って思い切り抱き着けば彼はやんわり私を抱き締め返してくれた
会いたかった。ほんの数日を途方も無く感じた
「………イル……ミ"さん"…………」
名前を呼べば呼び返す優しい声色に私は彼にしがみついて子供の様にわんわん声を上げて泣きじゃくった
彼はそんな私を引き離そうとせず其のまま抱き上げると何時もの様に座椅子に腰掛けた
「帰りが遅くなっちゃった」
本当に遅い……と言いたいが言葉に成らず只彼の名を繰り返し呼び続ける
彼が今目の前に存在して、肌の温もりを感じられる事が痛いくらいに幸せだった
彼が居る安心と幸福感に身体がふわふわする
私はいつの間にか意識を手離していた
彼の香りに包まれて見た夢は
彼に優しくキスをされるとても素敵な夢だった