第123章 足りない景色
何時もなら彼は濡れた髪を拭いながらテレビを見ていて
何時もならグレーのマグカップからコーヒーの香りがして
……何時もなら………
私はイルにゃんを拾い上げてぎゅっと抱き締めた
私の何時もならはいつか終わるのだ
其のいつかが今だったなら……
毎日繰り返す日常に彼の面影を探しながら来る日も来る日も私はきっと彼を待つ
私はスマホ画面を開き希望を込めて電話を掛けた
『もしもし?珍しいな!まさか沙夜子から着信があるなんて思わなかった』
「クロロさん、ちょっと聞きたい事が………」
彼と同じ世界の住人
彼と1日違いでやって来たと話していた事を思い出したのだ
彼が帰ってしまったのならきっとクロロさんにも電話は繋がら無いと思った
しかし繋がったという事は彼は確かに此方の世界に存在し、クロロさんも間違い無く此方の世界に存在しているという事だった
『どうした?』
「あの、元の世界に帰る時って解るんですか?」
『あぁ、念だからな。帰る期が近く成れば解るが……其れがどうかしたのか?』
「クロロさんはまだ帰る感じありませんよね?」
『あぁ、まだだな。』
「そうですか。ありがとうございました。」
『?あぁ、またな!おやすみ』
「あ、夜分遅くすみませんでした!おやすみなさい」
帰る期が近付けば本人達には解る……其の事実だけで私は気を持ち直した
突然の強制帰還は無い。
彼のスマホが道端に転がっている可能性が消えた
其れに、思い上がりかもしれないが別れの日何も言わずに居なくなる程彼は薄情では無いだろうし、私達の日々はそんな簡単な物じゃ無いと思う