第123章 足りない景色
私は気が付けば夕飯の支度をしていて何時もの様にラップをかけると居酒屋のアルバイトへ出た
アルバイト中の記憶は恐ろしく曖昧でタイムカードを切ると私は一目散に駅ビルを出た
勢い良く開いた業務員用の扉
しかし何時もの街灯の下に彼の姿は無かった
そして気付く
私の世界は彼の面影で満ちていた
もしかしたら飲み会から其のまま仕事へ向かい夜には何時もの様に並んで家へ帰れるかもしれないなんて思っていた
瞳から溢れては流れる涙が止めどなく落ちて人目も気にせずに泣いて帰った
もしかしたら部屋の灯りが付いていて彼は家で待っているかもしれないなんて期待も真っ暗な窓から打ち消える
扉を開けばシンと静かな部屋
「ただいまです!」
私の声だけが空元気に響き私は玄関に崩れ落ちて泣いた
どれだけそうしていたのか気が付けば身体はすっかり冷えていてやっとの思いで灯りを付ける
ラップの掛かった夕飯がちゃぶ台に乗っていて出て行く時と何ら変わっていない光景
気休めに付けたテレビも内容は全く入らず私はぼんやりしたまま入浴する
閉じた洗面所の扉はすっかり習慣に成っていて向こう側から漏れるテレビの音に期待する胸
「イルミさん!」
開いた扉からの景色は私が入浴する前と同じで付けたままだったテレビ番組が流れているだけだった