第123章 足りない景色
あの日から姿をくらませたヒソカさんと何らかの形で鉢合わせた末に………なんて考えると簡単に涙が滲んだがあくまでも仮説だと言い聞かせる
だけど決して無い話しでは無かった
何せヒソカさんは更々興味も無いくせに私を囮に使って彼を刺激した前科があるのだし何をしたっておかしく無いのだ
部屋で寛ぐ彼の姿が頭を過る
ぼんやり気の抜けた表情でテレビを見る横顔は私の声に反応して此方を向く
私の下らない話しに耳を傾けて相槌を打ち、時には呆れたり、時には意地悪だったり
だけど其の表情は優しくて……
……私を嫌に成ったのだろうか………
彼は気持ちを口に出さない
今まで感じた全てが逆上せあがった私の勘違いだったなら……
(………でも仕事着あったし………)
段ボールの中には確かに仕事着があった、針もあった
(…………帰って無くなってたらどうしよう…………)
私が居ない隙に私物を取りに戻っていたとしたら……?
不安は更なる不安を生み頬を伝った涙をこっそり拭った
業務中に突然泣き出してしまっては社内の注目の的になってしまうし端から見れば情緒不安定なヤバい人に成ってしまう
私は気力だけで仕事を乗り切り一心不乱に走って帰宅した
僅かに希望を抱いて開いた扉
室内に人の気配は無く、親方の回し車だけがカラカラと鳴っていた
私は靴を脱ぎ捨てて段ボールに駆け寄ると彼の仕事着を確認した
「………あった………」
昨夜と変わらず底にあった仕事着に少しホッとする気持ちと裏腹に負の思考が私を支配する
仕事着があったから何だというのだろう
彼も予期せず強制的に元の世界に戻っていたら………
「………電話……」
相変わらず無機質な声が通話不可能な事を知らせる
電波が繋がる場所には居る、と思う反面携帯だけが此方の世界に残されて何処かの道端に転がっているだけなのかも知れないと思ってしまう