第122章 雨と神社と山道
「道あってますよね?」
「うん。ナビが誘導してる」
彼の言葉通りナビは先程から順調に誘導を行っているのだがどう考えたって行きに通った道の方が良かった
そもそも行きは山越えなんてしていない
しかし引き返すには随分と山道を走っていて時刻は22時に迫っていた
海鮮類をたっぷり吟味したのも原因の一つだが私を酔わせまいと丁寧な運転を心掛けてくれている為に不安定な道が車の速度を落としていた
ポツリポツリと雨粒がフロントガラスに弾かれる音がする
窓の外には鬱蒼とした森が広がり木々の隙間からは濃い黒が覗く
雲に覆われた空は月明かりすら落とさず頼りは車のヘッドライトだけという何とも心細い状況に不安は膨らむばかりだった
彼を見遣れば彼は何時もの様に片手運転で平然としていてシートに落ちた左手をやんわり握ってみる
彼は横目で私を見た後にしっかりと手を握り返して
「大丈夫だよ」
と、私の心中を察した様に言った
彼の言葉は心強く、そして伝わる温もりが何より私に安心感を与える
随分走った所で道は何度目か解らないカーブに差し掛かった
するとヘッドライトの先に路肩でバイクを停めて缶コーヒー片手に俯く男性が照らし出されてドキっとしてしまった
「………雨やのに大変ですね。」
「…………。」
私の声だけが車内に響く中
車が通り過ぎて暗闇に包まれた背後がサイドミラーに映し出されて私は言い知れぬ違和感を覚えた
先程のバイクの男性はエンジンもかけずに彼処で何をしているのだろう
エンジントラブルの可能性も考えたが私達を見掛けて何も反応を示さない時点で其の線は消える
休憩しているにしてもあんなに真っ暗な街灯も無い場所でヘッドライトも付けずに居るのは普通では無い気がした
雨が降っているなら尚更山越えしたい筈なのに………
私なら自動販売機なんかがある前で休憩したりすると思うのだが辺りに自動販売機も見当たらず男性は只俯いていて………いや……俯いていたにしたって妙に下を向きすぎていた様にも思う……
私は考えて行く内にふつふつと恐怖が沸き上がるのを感じた
「ねぇ、沙夜子さっきのバイクだけど変だ「ちょっと待ってください!!!」