第122章 雨と神社と山道
「…………。」
「…………。」
スニーカーが弾いた小さな砂利が石畳に擦れてジャリっと音が鳴り私達には沈黙が訪れる
境内に他の参拝客は居らず私達は只無言で見詰め合う事数秒
「沙夜子って人形好きじゃ無かったっけ」
「…………好きですよ。基本的に」
「だよね。テレビの横にもいるし」
「あれはフィギアです。」
「…………。」
彼の瞳がすっと細められて私は肌寒さとは裏腹な汗を浮かべた
彼の言った「笑ってる」とは表情が笑顔だっただけで別に人形が突然笑顔を浮かべた訳では無い様だが今の私をビビらすには充分な言葉だった
人形は人々に可愛がられ、愛される為に生まれたので怖がったりしてはいけないと解っている。頭では解っている。
………ただ………彼のイタズラ心を刺激してはならない………
私は彼のイタズラの恐怖に耐えるキャパを持ち合わせてはいないのだ
私は真っ直ぐに彼に近付いて真顔を向けた
「此方に整列されてらっしゃる日本人形の皆様は歴史あるお人形です。フィギアと一緒にしては成りません。さぁ、皆様にご無礼が無い様に私達は帰りましょう」
「……………。」
台詞を一気に吐き出した後踵を返した私の背中に
「まだ奥があるよ」
彼の声が響いた
一刻も早く立ち去りたい。しかしその時脳裏に浮かんだのは先程の店員さんが言った"縁結び"の言葉だった
「っ…………」
怖い。正直私の肌は寒さも相まって鳥肌が総立ちである。
………しかし。彼との縁を強固にしたいという想いは強く私の足を踏みとどまらせた
「……………参りましょう。」
途端彼へ歩み寄った私を彼がどう思ったのかは謎だが二人並んで奥へ進んでいると
「あ。」
「!?」
彼が不意に立ち止まり私は挙動不審に立ち止まる
「な、何ですか?!」
「針供養だって。ほら、豆腐に針刺す」
「…………あぁ!」
遡る記憶に彼の奇行が甦る
そういう風習の存在を知らなかった私が頭を悩ませた絹ごし豆腐事件のきっかけと成った針供養がまさか此の神社でしっかり執り行われ立派な石碑があり、供養されているとは思いもしなかった……
境内の彼方此方に陳列された人形は勿論、針塚の隣にも並んでおり視線を只彼に集中させて気を反らした