第121章 妄想女子と勘違い
11月02日
居酒屋でのアルバイトを済ませてすっかり照明の消えた駅ビルを出ると彼は何時もの様に街灯の下で待っていた
其の姿に嬉しくなって駆け出せば彼はゆっくりと此方に歩み出す
「お疲れ様」
無表情な彼からの労りの言葉を聞いて同じ方向に並んで歩きながらアルバイトでの出来事を話すのが日課だ
「お疲れ様です!聞いてくださいよー、今日大きいお皿割ってしまったんですよー。」
「叱られたんだ。弁償?」
「いえ、そんな事は無いし怒られて無いけどテンションめっちゃ下がりましたよね……申し訳ないなぁって」
「別に良いじゃん皿くらい。」
私の話しにサラリと言った彼
………確かに過去の行いを振り返れば彼のコメントはこんなものかもしれない
「………イルミさんは家でもバンバン皿割りますもんね……。割るって言うか外に捨てるって言うか……」
「沙夜子って皿好きだっけ」
「え?………いや、別に」
可愛らしい食器を愛する人は世界中にいても、好きかと問われれば私にとって皿は皿以上でも以下でも無いので困惑してしまう
「テンションが下がるなんて言うから皿が好きなのかと思ったよ。好きな物割ってたなら謝らなくちゃと思ったけど平気みたいだし良かった。」
「…………。」
彼の思考は本当に摩訶不思議で多々ズレを感じるがツッコむのも骨が折れるのでスルーを決め込む
好きじゃないなら壊しても平気だなんて随分極端な発想で猟奇的な部分を垣間見た気がした
「あ、あとクロロさんが来ましたよ!」
「……へぇ」
「一人飲みして帰って行きました。どうもポテトサラダが好きみたいです」
クロロさんは相変わらずにこやかだった
週末の為に混み合う店内では少ししか会話出来なかったが一時間程で手早く帰って行った
特段用事があった様にも見えないので本当に食事に来たのだろう事を伝えると
「あっそ。」
と興味無さ気に呟いた