第120章 ハロウィンの夜
潤む視界を逸らそうとした瞬間、瞳に映った彼は意地悪に舌を出して私をからかっている様な表情を浮かべていて
私は居ても立ってもいられずにカウンター席を立ち彼の背中を揺する
ゆっくりと振り返った彼を見上げれば霞んだ視界に無表情が映った
「……二人で抜ける?」
「………はい」
「行こうか」
言うなり引き留める女性達を無視して私に上着を羽織らせた彼は驚いているシャン○スと岸辺○伴に何か言葉を掛けていて
サラリと肩を抱かれて店を出た
「あ!支払いしないとダメ「藤木に渡したから平気」
「……いつの間に………」
「其れより何処に行く?」
「………お腹空きました」
「ご飯だね。」
隣を歩く彼は普段と変わらず一杯一杯の私とは違って余裕を漂わせていた
「イルミさん何話してたんですか……」
「何だろう。殆ど聞いてなかった。……沙夜子は可愛いなんて言われてたじゃん」
「え!?忘れました………」
「馬鹿馬鹿しいね」
「………え………」
「この会話。」
「はい………」
お互いに殆ど会話を覚えていないのに探り合う状況は彼が言う通り馬鹿馬鹿しいかも知れない
「何食べたい?」
「居酒屋で軟骨とか食べたいです………刺身とか………」
「解った」
「……イルミさんは?」
「何でも良い」
私のリクエストは可愛らしくも何でも無いものだったがやって来たのは個室のある居酒屋だった
小さな個室ながら掘りごたつの其処は落ち着いて食事出来そうな雰囲気だった
彼に促されるまま奥の席に座り
お刺身や軟骨は勿論、ガンガン酒を煽りながら沢山のおつまみを食べる
トイレへ向かった彼を待つ間にもバクバク食べる私はバーで彼に話し掛けていた女性達と違い色気が足りない事は熟知している
しかし、お腹が空いていたし彼女達の様にお洒落な食べ物ばかりではお腹が満たされない
なんて考えていると戻って来た彼は何故か自身の席には着かず私の隣へ腰を下ろした
「……イルミさんの席あっち」