第13章 優しい手
帰宅してそれぞれ布団に身を包んでいる
私は未だ胸が高鳴って眠れずに何度も寝返りをうつ
(イルミさんもう寝たかな)
何て思っていると彼の声に名を呼ばれた
就寝の体制に入ってから会話するのはまだ数える程しか無い
「なんでしょう」
「眠れないの?」
「……はい」
「絶対に眠れる方法があるんだけど、試してみる?」
「そんなんあるんですか!お願いします」
モソモソと布団の中動く音が近付くので多少成りとも心臓は高鳴ったが
彼は自身の布団から決してはみ出して来る事無く腕を伸ばして私の頭を撫で始めた
その手で人を殺めるとはとても思えない優しい手付きで何度も何度も繰り返し撫で続ける
「………イルミさん」
「なに」
「これですか」
「うん。キルもカルトも直ぐに眠る」
「………成る程」
弟達で実証済みという訳だ。
しかし、私は弟達とは違い緊張してしまうのだがその辺の考慮は堂々とお姫様抱っこをやって退ける時点で皆無だ
「………次からはバイト終わり迎えに行くから」
「えっ!良いですよそんなん悪いし」
「何かあったらどうするの?」
「何も無いですよ~」
「俺のご飯誰が作るの」
そんな台詞は反則じゃないだろうか。
彼が何処かに行ってしまうと思って不安だった昼間が嘘の様に今日は彼に心配されてばかりだ
それが何だがくすぐったくて嬉しかった
「……じゃあお願いします」
「うん」
彼はきっと弟感覚で私と接して居るのだろうが
家族愛の重たい彼の中での私の立ち位置は随分と昇格したのではないだろうか
……今幸せならば片想いでも良い
気持ちは既に消せない程大きくなっているのだから
私はいつの間にか本当に眠りに落ちていた
「………眠れたでしょ」
私の顔を覗き込み
「本当に手がかかるんだから」
なんて彼が呟いた事等知るよしも無い