第119章 思いと想い
彼に起こされて展望テラスに出ると吹き抜ける強い風が体温を奪う中、瞳に飛び込んだのはキラキラと宝石箱をひっくり返した様な満点の夜景だった
「……わぁ!!めっっっっちゃ綺麗!!!!」
背後に佇む彼を振り返ると柔らかい笑みを浮かべた姿に息を飲んだ
「綺麗だね」
なんて言った彼
彼の微笑みは夜景の何倍も輝いていて二人並んで街を見下ろしながらもずっと彼を意識していた私はあっちが家の方角だと言われても全く頭に入らなかった
私達はその後ゆっくりと進む車内で会話を楽しみつつ帰路に着いた
一泊二日の短い小旅行
しかし、濃密で幸せな時間の連続だった
彼が抱き締めてくれた温もり、彼が向けた眼差し、彼がくれた全てが私を暖かく包んでいた
彼が話してくれた自身の事は胸に大切に仕舞った
また時間が過ぎる
大切な思い出が過去に成るのだ
なんてぼんやり思いながらも私は窓の外を眺めていた
夕飯は結局コンビニで済まして私達は何時もの定位置でテレビを見ている
何の変哲も無い狭い部屋
歩けば軋む床、色褪せた壁紙
座椅子に腰掛けた彼はゆっくりと焼酎を傾けていて
部屋の隅には木刀が立て掛けられていた