第119章 思いと想い
車を温泉街付近の駐車場に停めた私達は辺りを観光していた
やはり何処へ行っても目立つ彼へ沢山の視線が集まっていて昨日は素敵な旅館で彼をずっと独り占め出来たのだと考えると幸福感で満たされた
雑貨やお土産屋さんが並ぶ中、気になった一件に入って中を物色する
"温泉の素"なんていう入浴剤に目が行く
なんでも此れを湯船に入れれば温泉に近い水質に成り温泉の効果と近い物が得られるらしい
温泉といえば肩こりや冷え性、美肌効果……と夢の様な効果が沢山ある
私は入浴剤を手に取り彼に見せた
「これがあれば毎日温泉ですよイルミさん!お肌スベスベになるかも」
「所詮水道水だよ。」
「…………」
バッサリである
確かに所詮水道水かもしれないが混ぜる事によって良い効果があるかもしれないじゃないか………なんて私の熱弁は虚しく
「俺は信用出来ないね。」
淡々と言った彼は絶対に必要無いお土産あるあるの木刀を見ていた
「…………」
「サムライ………」
なんて呟いた彼の横顔は真剣そのもので吹き出してしまいそうなので違うコーナーへ移動する
私は結局職場へ炭酸煎餅を購入し実家へ温泉の素を購入した
実家で入浴する際に使わせてもらうという姑息な作戦だ
彼はというと木刀を握り締めて此方を見ていたのでやんわり取り上げて元の位置に戻した
「サムライだよ沙夜子」
「ほんまにやめてください」
「…………何ニヤけてるの。俺の話し聞いてる?」
「聞いてるからこんな顔してます。」
私は速やかに彼の手首を掴み店外へ出た
おとなしく連れられていた彼だがチラリと店を振り返った後に
「サムライって何処で会えるの?」
なんて瞳を輝かせるのでその場にしゃがみ込んでしまった
込み上げた笑いを必死に噛み殺すが震える肩
「………。」
チラリと彼を見上げれば彼は瞳を細めて怪訝な表情を向けていた
彼は普段至極冷静で飲み込みも早く知識を蓄える努力も厭わない
今では私なんかより難しい漢字も読み書き出来るし図鑑も相当気に入っている様子で先程見た鯉の種類迄さらっと言って除けていた
普段私を嗜める彼が侍の存在をどの様な経緯で知ったのかは解らないがまだ日本に侍という職業があると思っているという事は多大なギャップを生み出していて酷く可愛い