第119章 思いと想い
なんて考えながらもぼんやりテレビ画面を見遣ればニュース番組で紅葉が見頃を迎えたと知らせていて山間の風景が映し出されていた
いつの間にかスピーディーに身支度を整えた彼も私の隣で其の光景を眺めていて
「帰りに見て帰ろう。」
なんて呟くので私は元気な声で返事を返した
暫くぼんやりテレビを見た後に運ばれて来た朝食に舌鼓を打つ
朝から松茸や秋刀魚等旬な食べ物が満載でボリュームも凄い
丁寧な仲居さんの説明によると天然の鰻は秋が旬らしく、うざくや蒲焼き等小さな小鉢にちょこちょこと種類豊富に出されるのは
色々な味が楽しめて嬉しい心遣いだ
今朝のメニューは夕飯に出された松茸の土瓶蒸しとは違いシンプルな焼き松茸とお吸い物等さっぱりしていて朝に嬉しい一品だった
デザートには栗とさつまいもの羊羮と最後迄秋尽くしで大満足のまま朝食を終えた
食後のドリンクを飲みながら会話する
「何時チェックアウトですか?」
「12時だからまだゆっくり出来るよ。この辺り観光して昼食を食べたら六甲山に行って紅葉見て帰ろう」
「はい!」
「夕飯は家の近所で良いかなと思ってるんだけど」
「そうですね!」
「じゃあ決まり。」
「はい!」
時刻は10時30分
随分ゆっくりと朝食を取った気がするがまだチェックアウト迄には時間が余っていた
「イルミさん、館内探検に行きませんか!」
「うん」
私達は昨夜見ていない場所を探検し、裏庭に池を発見して鯉を眺めたり、見事に赤に染まった木々が水面に反射して綺麗に映っている光景を二人眺めたりしていると時間はあっという間に過ぎた
そしてチェックアウトの時間
エントランスにて「ここで荷物見てて」と私に言い残した彼は対して大きくも無い鞄を私に差し出すと踵を返してカウンターに向かった
私に役割を与えて支払いに加担させない魂胆は見え見えなのだが彼の紳士的な振る舞いを無下に出来ず私は静かに彼を待った
「ほんまに素敵な旅館でしたね!」
「うん」
「雰囲気もご飯もお酒も温泉も!もー夢みたいでした!」
「良かったね」
「はい!」
言葉こそ素っ気ない彼だがその声色は穏やかなもので思わず頬が緩む