第119章 思いと想い
「気分はどう?」
額に触れた彼の手のひらはひんやり冷たく心地好さに目を細める
「………私……何があったんでしょう……」
「温泉で逆上せて倒れたんだよ」
彼の言葉に記憶が蘇りゆっくりと上体を起こせば縁側の障子が開け放たれており、ししおどしがカポンと鳴った
逆上せていた私には心地好い風だが彼の手は冷たかった
私のせいで彼は湯冷めしてしまったらしく申し訳無さでいっぱいに成る
「……ご迷惑かけてしまってすみませんでした……」
「別に迷惑じゃ無いよ」
「すみません。」
膝枕する為に正座していたらしい脚を崩して髪をかき上げた彼を見遣れば右手にお猪口を持っていて部屋に残っていた地酒を煽っていたらしい
「沙夜子はもう駄目だよ。飲むなら水ね。」
私の視線に気付いた彼は言うなり一升瓶を背後に隠した
…………別に一升瓶を奪い取ってラッパ飲みする程私は卑しく無いのだが………彼の警戒が可笑しくてニヤっとしてしまう
「………何笑ってるの。」
「いえ、別に」
「………体調はどう?」
「お陰様で全快です!」
「そう。」
また部屋にカポンと小気味良い音が鳴る
彼はふぅっと息を吐くと小さく「良かった」と言った
其の声は私に投げ掛けたと言うよりは思わず漏れた様な言葉で私は返事の代わりに笑って見せた
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交代に部屋の露天風呂にて入浴を済ませて布団で横になる
彼の言葉通り念願だったシャンプーは部屋にもあり、本当に良い香りに大変満足なのだが
彼には香りが強すぎたらしくお気に召さ無かった様で
「これ凄く臭いんだけど本当にシャンプー?」
と眉間に皺を寄せていた