第119章 思いと想い
静寂が包む廊下に一人出れば身体からは湯気があがっていて随分長湯したのだと気付く
………彼女は平気だろうか……
入浴中と書かれた札を掛け変えて出たのは溜息だった
其の理由はまだ冷めやらぬ身体に燻る熱を思えばこそで
(危なかった………。)
彼女の気持ちを確信したあの日から日に日に彼女を求める気持ちが強くなり必死に自制心を働かせている毎日
彼女を強く思えば思う程気持ちを伝えては成らない……
そんな自身が混浴なんて企てる筈も無く馬鹿みたいな致命的ミスを知らされた時はどうすべきなのか思考が停止した
しかし即座に反応したのは本能だった
彼女が楽し気に湯に浸かる姿が見たかった。彼女が頬を染めて照れている姿を見たかった。彼女に触れたいと思った。
風呂上がりの彼女の姿にすら動揺を誘われるのだ
タオルという布だけを身に着けた彼女の肌は水を弾き魅惑的に濡れていて視覚的な刺激が何かを駆り立てた
吸い込まれそうな肌とは裏腹な純粋な笑みを崩してしまいたい………思った時には愛欲が溢れていた
しなだれ掛かった彼女をそのまま……なんて思っていたら彼女は逆上せてしまっていた
彼女が心配な反面、良かったと思ってしまうのはあのままでは確実に理性が働か無かったからで
今迄生きてきた人生で自身の本能に屈する事等無かった
今迄との違いを挙げるなら自身に強く根付いてしまった気持ち
(……好きって難しいね…………)
大きな物音が耳に響く
「……沙夜子……?」
呟きは秋風に吹かれて流れた
__________"
瞼を開くと彼が私を見下ろしていて私はどうやら膝枕されている様だった
「…………?」
ぼんやりとする頭で辺りを見渡せば其所が宿泊している宿の寝室であると解った