第118章 月夜の湯煙
水中な為に浮遊力が働き抵抗の余地無く彼に向かい合った私は羞恥からまともに彼の姿を見れずに思い切り顔を横に向ける
私の動きを束縛する様に腰に回された腕に男女の交わりを連想してしまった
「……沙夜子こっち向いて」
熱っぽい彼の声に胸が締め付けられる
「……恥ずかしいから無……っ…!」
言い終わるより早く彼の手が頬を撫でて強制的に彼の方を向かされれば途端に視線が交わる
………お酒を飲んで楽しく話していた彼と今目の前にいる彼は本当に同一人物なのだろうか
普段無機質な表情を崩さない彼は大きな瞳が印象的だ
私は彼の真っ直ぐな視線や黒目がちな瞳が大好きでついつい見惚れてしまう事が多いのだが其の理由に瞳には彼の感情が現れ易いからというのもあった
嬉しそうに輝いたり、呆れていたり、しゅんと沈んでいたり……
目は口ほどに物を言うという言葉の意味を体感したのは彼と出会って初めてだった
無感情で大きな瞳の持ち主である筈の彼が今私に向けているのは淫靡で熱っぽい雄の眼差しだった
彼が漂わせる空気がいつもと違った妖艶な色を含んでいて、心臓は更に早く速度を上げた
頬に触れていた大きな手はゆっくりと首筋を伝い彼はある一点を指先で撫でる
「随分薄く成ったね」
「……っ」