第118章 月夜の湯煙
「悪く無いね」
なんて機嫌が良さそうに言った後に徳利を然り気無く取り上げられて今度は私にお酌してくれる彼は優しい
私達は日本酒を楽しみながら会話を弾ませたのだが小さな徳利は直ぐに空に成ってしまった
「……おかわり持ってきましょうか?」
「部屋にもあるしもう良いんじゃない?」
何て平然と会話しつつタオルを絞っている彼にぎょっとする
彼が今まさに絞っている目の前のタオルは彼が唯一身に纏い辛うじて目隠しの役目を果たしていた筈の物だった
すなわち其のタオルが彼の手にあるという事は彼が一糸纏わぬ姿である証拠だと理解した途端に体温が上がるのが解った
「…………っ………」
絶句している私に視線を寄越した彼と目が合う
「巻き直すから向こうむいてて」
「はい!!!!!」
彼のせいで裏返った声は良く反響して恥ずかしく成った
此れでは意識しているとバレバレだ
しかし、想い人と同じ湯に浸かり意識しないなんて無理がある話だと私は思う
「……ねぇ、沙夜子」
「っ!!!」
私が考え耽っている間に彼の声が随分近くから聞こえてビクリと身体が跳ねて僅かに水面が波打った
跳ねる心音に動けなくなってしまい視線を落としていると耳元に吐息混じりの彼の声が響く