第118章 月夜の湯煙
………カップルなら素敵だね、なんて言い合える場面かもしれないが 私はすっかりたじろいでしまっていた
しかし只縁側で飲むだけだ。
私が意識し過ぎなのかも知れない、なんて考えているとトントンと遠くからノックの音が響いた
「……?」
「……?」
二人見詰め合った私達はきっと同じ気持ちだろう
(…………何…………?!)
まだ固まっている私を置いて彼が開いた扉から入って来たのはにこやかな仲居さんだった
尚も疑問符が浮かぶ中彼を見遣ると彼も状況が理解出来ていない様子で仲居さんを見据えていた
「貸し切り風呂のご用意が整いましたのでお知らせにあがりました。お時間は一時間となりますので宜しくお願い致します。」
仲居さんは深々と頭を下げる
「………?」
「……貸し切り風呂」
呟いたのは彼だった
「ご予約に御座いました貸し切り湯で御座います。廊下にてお待ちしておりますので支度が整いましたらご案内致します。」
丁寧ながら有無を言わさない雰囲気で説明を終えた仲居さんはまた深々と頭を下げると出て行ってしまった
仲居さんが言った貸し切り風呂とは所謂混浴というやつだとは理解している
しかし彼も把握し切れていないらしい状況に私達の間には只困惑が広がった