第118章 月夜の湯煙
「私死にそうです………」
「沙夜子はよく死にそうになるね」
クスリと笑みが降ってきて仰ぎ見た先で彼の妖艶な色を湛えた瞳と目が合う
しかし其の不適な瞳とは裏腹に大切な物を扱う様に優しく抱き寄せられた身体は離れず
彼の香りに包まれて私は幸せで溶けて無くなりそうだった
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私達は他の宿泊客が足湯を訪れる迄ずっとそのままでいた
上がった体温は温泉効果か彼の仕業か中々冷めず部屋に戻ると暑いくらいだった
彼は何事も無かった様に通常通りだが無表情というよりは何処か柔らかい表情を浮かべていて彼の中でも先程の出来事は無かった事には成っていないのだと思うと此方迄頬が緩む
彼は座椅子に腰掛けると酒を手に取り小首を傾げた
「まだ飲むでしょ?」
「はい!折角やから縁側で飲みません?」
「良いよ」
私達は早速隣の和室へ移動しようと襖を開いたのだが視界に飛び込んで来たのは二つ並べられた布団だった
「………」
「………」
足湯で幸せに浸っていた間にセットされたらしい布団は自宅と何ら変わらない距離で並べられているので動揺する程の事柄でも無い筈なのだが
自宅とは似ても似付かない部屋な事も相まって特別な雰囲気を演出し、何処か際どさを漂わせているのだと解釈する