第117章 広がる世界の話し
彼は事も無さ気に無感情に言って除けるが彼の世界は余りにも狭く感じた
多忙な仕事を日々こなして休日は仕事の為に時間を割く……
そんな彼の姿を想像すると何だか悲しく成った
彼は特段疑問に思う事も無く家業だから当然の様に暗殺者に成ったと以前話していた
そんな彼は幼い頃から訓練浸けだったのだろう事は容易に想像出来る。
今だって元の世界にいたならば幼い頃から繰り返して来た様に毎日訓練をこなしゾルディックという狭い世界で誰とも馴れ合わず過ごしていたのだろう
「………イルミさん」
「何。」
紡いだ声は随分小さかった
「今の世界での休日は何してますか?」
「え。沙夜子は馬鹿なの?………テレビ見たり外出したり……何時も沙夜子と一緒なんだから知ってるでしょ」
「はい」
彼は余り話さない。
だから解らない。
だけど、彼の世界は此方に来て随分変化したに違いない
彼の軸だった家業も無く訓練も無い世界。最初は本当に戸惑っただろう……
今みたいに彼の表情の変化を感じ取れたならばあの時の彼の気持ちに寄り添えたかもしれない……なんて思う
一緒に見た様々な風景や感じた風、食事、下らない会話、繰り返す平凡な毎日。
彼の世界は広がっただろうか
家の為では無い、彼個人の景色は少しでも変化しただろうか
「イルミさん」
「んー?」
御茶請けに乗ったお煎餅を頬張った彼の横顔は何処か嬉しそうに輝いた
「美味しいですか?」
「うん。砂糖醤油味かな」
彼に差し出された御茶請けから同じお煎餅を受け取る
口に含めば優しい甘味と醤油のコクが広がった
「美味しい!」
「ね。」
何処か得意気な彼の声色に笑みが零れた