第117章 広がる世界の話し
10月27日
私達は車に揺られて有馬温泉に向かっていた
彼が企画した温泉旅行である
昨夜ワクワクし過ぎてよく眠れ無かったのだが車に揺られても眠く成ら無いのは楽しみ過ぎてテンションのメーターを振り切りそうだからだろう
大好きな彼と二人きりの空間に思える車内でお気に入りのCDをかければ幸福感に包まれる
彼は全く音量を気にしないので大音量で流れた曲を熱唱していると隣から視線を感じ声は尻すぼみに小さく成った
「き、今日観光とかするんですか?」
「しないよ、観光は明日。今日は宿でゆっくり過ごそうと思って」
「そうですか、どんな宿か楽しみやなぁ~!」
「うん。」
言いながらハンドルを切る彼は緩く後ろで髪を結んでおり
家から羽織っていた上着を脱いだ事でピッタリとした黒のロングTシャツが透き通る様な肌の白さを強調していた
黒という色味から随分引き締まった印象を受ける彼は異国情緒に溢れていて彼の内面を知らなければ話し掛けるのも憚られる程に凛々しい雰囲気が漂っている
何時も片手運転の彼
力無くシートに落ちている左手はしなやかでいて見た目よりも幾分も大きい事を知っている
ドキドキと高鳴る胸は旅行へ向かっているという嬉しさも相まって自然と笑顔に成った
「………イルミさん。」
「なに?」
「すっごい楽しいです今!」
「ただの道だけど」
「行き道から旅行は始まってるんですよ!」
「ふーん。」
無愛想な言葉ながら僅かに表情が緩んだ彼に見惚れてる内に車は高速道路を走っていて
会話を弾ませている内に窓の外にはあっという間に温泉街が広がった