第13章 優しい手
翌朝もイルミさんは私より早く起きていた
「おはよ」
「おはようございます」
昨夜の事を思い返す
あの後お風呂から上がったイルミさんは先程迄の事等無かった事の様に普段通りに戻っていた
「沙夜子、さっきはごめん。これからは勝手に出ないよ」
「……いえ、私も怒鳴ってすみません」
正直驚いていた
彼が人に謝る姿等想像も出来ない自体が目の前で起きたのだ
私はたった数日で彼を知った気でいたが本来の彼は先程見せた雰囲気を纏う姿なのでは無いだろうか……なんて考えてしまう
所詮私はまだまだ彼を知らないのだ
そもそも嫌になってしまえば彼は何処にでも出て行ける
この家に居場所を縛られる事は無い筈だ
不安になった
私は彼と出会ってから不安になる事ばかりだ
胸がどうしようもなく苦しくて今にも泣き出してしまいそうだった
それを悟られたくなくて俯く
「久々に仕事したら疲れたみたいで、ちょっと早いけど私寝ますね!」
声色だけは元気に布団に潜り涙を拭った
明日の朝も彼が此所に居る保証等何処にも無いのだ
「おやすみ」
「おやすみなさい、イルミさんも程々にせんと風邪引きますよ!」
「わかったよ」
優しい彼の声は余計に私を悲しくさせた
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私達は一緒に朝食を取り
昨日と同じくお昼ご飯を用意してイルミさんに見送られて出勤した
「今日は元気無いなぁ~昨日の男のせいか?」
なんて藤木の言葉にも言い返す気力が無く適当にあしらった
ぼーっとしていたせいか何回も原稿を読み間違えながらも仕事を終えて帰宅する
室内は真っ暗だった
昨夜考えた事を思い出し涙が込み上げるのは早かった
玄関に座り込みただ呆然とする
暫く座り込んでいたが部屋に明かりを灯して見渡してみる
やはり彼の姿は無かった
キッチンへ行くと綺麗に洗われた食器が目に入る
「……イルミさん」
酷く震えた声が漏れた
(………そうや、携帯)
何か連絡が入っているかもしれない
夢中で鞄の中から引っ張り出して画面を開いた
【図書館に行ってくる】
彼からのメールだった