第12章 摘み取るなら早い内
聞き耳を立てつつ身体の水分を拭き取っていると
「沙夜子ならお風呂だよ。 ふーん お前誰? 知らない」
なんて聞こえてくる
私は妙な確信を得て急いで寝間着に身を包みリビングへ飛び出す
「イルミさん!?」
彼が持っていたのは案の定私の携帯だった
「うるさいなぁ」
と言ってまだ話している声が漏れる携帯は彼の手で通話を強制終了された
「………!勝手に私の電話出んといてくださいよ!」
別にやましい事は無いが、それはプライバシーの侵害というやつだ
「藤木って誰」
「……えっ?!」
おかしい……今は私がイルミさんに怒っている場面のはずだ
なのに何故彼は普段見せない鋭い目をするのだろう
「仕事場の同期ですけど……」
「さーやって呼ばれてるの?」
「……あ、はい、あだ名……?」
「ふーん」
「……イルミさん、何話したんですか……?」
「別に何も」
「嘘や!何か喋ってたやん!」
「……電話、かけ直せば良いでしょ」
ポイっと投げられたスマホをキャッチする
普段感じさせ無い冷たい雰囲気を纏う彼に戸惑い、問い詰める事も出来ずに画面を開きリコールをした
「もしもし、さっきはごめん」
『さーや?!めっちゃびっくりした!彼氏おったん?』
「………………彼氏じゃないよ」
事実を言葉にしただけなのに胸が酷く痛んだ
『そうなん?!俺悪い事したか思ったぁ~』
電話口から聞こえる藤木の陽気な声とは裏腹にリビングを後にし浴室へ向かう彼の背中を見送った
『合コンの件で電話してんけど……まずかった?』
「大丈夫」
『いつする?!』
「メンバー集めてからまた決めよ!皆の予定もあるし」
『そうやな!4対4で宜しく~!』
「うん、わかった」
電話を切ってから私はただぼーっとテレビを眺めていた