第114章 些細な日常
「あの、……今の音………」
後ろ手で扉を閉じた彼
「沙夜子の心配する様な事はなにも無いよ、行こう」
彼が余りにも穏やかに言い聞かせる声色で言うのでじっと瞳を見遣れば彼は深く溜息を付いた
「…………迫られたから眠らせた。殺しちゃいないし今の出来事も夢か何かだと思うだろうよ」
「………そう………ですか………」
迫られた………と彼は簡単に口にした
あの色気漂う女性に迫られて彼は揺らがなかったのだろうか……
「イルミさんは………その………」
「…………沙夜子?下らない事考えてるでしょ。これは手に入れたんだし帰るよ。」
彼は言うなり私の手を引いて部屋に戻ると何事も無かった様に真っ直ぐベランダに向かい折れた先だけで布団を叩いていた
私はそれ以上何も言えずに黙って掃除機をかけ続けた
只彼が引いてくれた右手はずっと暖かかった
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私達はその後近所のスーパーに来ていた
「イルミさんはお豆腐、油揚げ、刻みネギ、一味の詰め替えお願いします!」
「了解」
短く返事をした彼は踵を返して店内へ消えた
今晩の夕飯は鍋である
私は残りの具材を買い求めるべく店内を回り
全ての具材をカゴに詰めたのだが何時もならすんなり私の元へ戻ってくる彼が一向に戻って来なかった
電話しようとスマホを取り出すが部屋を後にする間際彼はスマホをちゃぶ台の上に置いて来ていたのを見ていた
彼が足を立ち止めるなら何処だろうか………と考えて直ぐに足が動く
向かった先はスナック菓子が陳列されたコーナーだった
そしてそのコーナーで目にしたのは小学生の少年達に交ざりまんじりともせずスナック菓子を真剣に眺める彼の姿だった
「………イルミさん……」
「……あぁ、沙夜子。これ頼まれてたやつね」
彼は言うなりカゴに品物を詰めるとまた棚を大きな瞳で見詰め始める