第114章 些細な日常
よく考えれば下の階の人と話したのは引っ越した当初ご挨拶に上がった時だけだった
生活リズムも違う様で其れ以来顔すら合わせていない
(…………確か綺麗なお姉さんやった筈………イルミさんも綺麗って思うんかな………嫌やな………)
なんて独占的な考えに眉間に皺を寄せているとガチャリと開いた扉から覗いたのはランジェリー姿の色っぽい少し歳上の女性だった
「………なに?」
あからさまに不機嫌な表情を浮かべた女性は気だるそうに煙草を燻らせていた
「あ、えっと……「ベランダに布団叩き落としちゃって、取りに来たんだけど。」
戸惑った私の言葉に被せて声を上げたのは彼だった
女性は途端に妖艶な笑みを浮かべる
「………どうぞ、お兄さん取りに入って?」
嫌な予感がした。
女性は彼の事を認識した途端に態度を変えたのだ
豊かな胸の谷間に透けて見える肌は薄い布地から白さを覗かせ同性の目からも美しく魅力的に見えた
私に無い色気を存分に漂わせた女性に誘われる様に彼は部屋に足を踏み入れる
私も後へ続こうとすると扉は途端にバタンと閉ざされてしまった
「っ…………」
人の家に無断で入室する程私は礼儀知らずでは無い
しかしさっきの女性の態度は如何なものだろうか……
なんて失礼な人だろう。
私は嫉妬や焦り、怒りが混ざって胸の中がぐちゃぐちゃに成った
「…………何をのこのこ着いて行ってるんよ!!………もーっ!!!!」
地団駄を踏んでいるとバンと大きな物音が室内から響いた後に静かに部屋の扉が開いた
すっと目線を合わせた彼は酷く冷たい表情を浮かべていて息を詰まらせる
「………っ……」
「お待たせ。」
無表情に言った彼はしっかりと布団叩きを持っていた