第114章 些細な日常
ゴーゴーと掃除機の音が鳴り響く室内にこれでもかとバシバシと布団叩きの音が響き驚きのあまりベランダを振り返る
そんなに力強く叩かなくても良いのに………
掃除機の音より大きいとは一体………
なんて考えていると彼は実に悠長な所作でこちらを振り向き布団叩きの原型を留めぬ只の棒を差し出した
私は瞬時に悟り掃除機の電源を切る
「………イルミさん………布団叩きの先何処にやりました?」
「…………折れちゃった」
実に淡白な声色だった
「折れちゃったって…………折ったんですよね」
「うん………先はね……下に落ちた……」
視線を反らした彼は申し訳無さそうに言葉を沈める
「……拾って来てください。」
「下の階のベランダなんだけど……拾って来て良い?」
「………っ………駄目です。……不法侵入は見逃せません。一緒に謝りに行って取りましょう………」
「…………解った」
流石の彼でも他人の敷地に不法侵入するのはいけない事なのだと理解している様で私の提案に素直に頷いた
私は部屋着から着替えて廊下を歩き階段を降りる
カンカンと足音が響く中彼はえらくしゅんとした表情で着いてきていた
(……………可愛い………)
とは状況的に口には出さない
古びたチャイムを押すと我が家と同じ音が鳴る
ドキドキと高鳴る胸は緊張の汗を浮かべさせた