第112章 植物館に秋の風
舗装された道をただ車に向かって歩く中
「………沙夜子、あまり楽しくなかった?」
言葉を漏らしたのは彼だった
「え!?楽しかったですよ!」
「本当?なんだか元気が無いみたいだから」
彼に気遣いされる程あからさまにテンションダウンしていたらしい
せっかく彼と外出しているのだから目一杯楽しみたい
私は無理矢理に笑顔を向ける
「………ほら、やっぱり楽しくなかったんだ」
まさか作り笑いを見破られるとは思いもしなかったが心中は楽しくなかったと言うより楽しかったが切なく成ったと言った感じなので否定する
「楽しかったですよ!ちょっと落ち込む出来事があっただけで……」
「落ち込む………何?」
「えっ!?………えーっと………」
チラリと私に視線を送った彼は全てを見透かしそうな眼差しを向けていて私は不意に俯く
「………婚期……遅れるなぁって……」
「沙夜子でもそんな事気にするんだ。」
「………一応」
「ふーん。…………それってさ、」
立ち止まった彼につられて立ち止まれば一際強い風が吹いて木々がざわざわと騒いだ
「俺のせい?」
普段の単調な声よりも低く届いた声は何処と無く胸を切なくさせるものだった
「っ………違いますよ。私彼氏もできひんし……好きな人も……できひんから……なんとなく思っただけです」
「………そう。」
呟くとまた歩き出した彼の背中
ここで引き留め無ければ何処かへ消えてしまいそうで思わず腕を掴んだ
「……だから、イルミさんがいてくれるおかげで寂しくなくて、ほんまにめっちゃ楽しいし日々呑気に暮らせてます!ありがとうございます!」
「………沙夜子は馬鹿だね」
一瞬驚いた様に振り向いた彼だが真っ直ぐ前を見据えると何処か嬉しそうに声を弾ませた
「イルミさんはすぐ馬鹿って言いますよね!関西ではアホって言うんですよ!」
「それ、鈍ってるよ」
「知ってますよ!方言です!」
「あっそ。」
私は車に戻る迄彼の腕を離さなかった
そして彼も然り気無くポケットに手を入れて腕を組み易い様にしてくれていて振りほどく様子は無かった