第112章 植物館に秋の風
次いで見えて来たのは"海回廊、山回廊"そして2つを繋ぐ"円形フォーラム、楕円フォーラム"
太陽光が存分に注がれる海回廊の空間は明るい印象を受ける一方、山回廊はわざと視界を遮断しているのか磨りガラスをあしらった空間は影を思わせた
そして2つを繋ぐフォーラムも独創的で思わぬ場所に空間を発見したり複雑に入り組んでいるようでいてシンプルだったりと思いの外楽しみながら散策する事が出来た
彼はどうだろうかと表情を伺えば彼も私同様、興味深気に繁々と辺りを見回しておりニヤニヤしてしまった
そしてお目当ての百段苑を見渡せる展望台へやって来た
山の斜面に沿って階段状に並んだ100個の花壇は全て正方形で綺麗に並んでおり色とりどりのマーガレットやキンセンカが咲いていた
その配置や造形もさることながらカラフルに咲き誇る花は丁度見頃を迎えておりその美しさにも溜息が漏れた
「やっぱりめっちゃ綺麗ですね!」
「うん」
「世界のキク科植物を集めてるんですって」
「ふーん。」
説明書きを読み上げた私は彼に視線を向ける
柔らかな日射しを受けて彼の白いシャツが目に眩しい
吹く風に瞳を細めて遠く花を見下ろす眼差しが私に向けられてドキリと心臓が早まった
彼の髪が風に靡きシャツが肌に張り付いて中性的な容姿からは想像も付かないがっしりとした体格を形取る
同じ風に吹かれてワンピースの裾はヒラヒラとはためいて膝を擽った
何の言葉も交わさずに見つめ合っていた私達だが頬が染まるのを感じて視線を反らして俯いた
「今日は珍しい格好だね」
「……イルミさんからのプレゼントです」
「そうだね。」
「夕飯フレンチ食べようって言うてたから……」
「それでおめかししてるのか」
「………はい……どうでしょうか…?」
「似合ってるよ」
ヒールの爪先に落としていた視線を再び彼に向けて息を飲む
ふわりと微笑む彼があまりにも綺麗で鼓動はただ速度を上げるのに込み上げる切なさになんだか泣きたい気持ちになった
「ありがとうございます!」
「どういたしまして?」
それでも素直に笑えたのはきっと彼の言葉が魔法をかけたからだろう
彼に「似合ってる」と言われた幸福は私の頬を簡単に緩ませた
「イルミさんも似合ってますよ!」
「何時ものシャツだけどね」