第111章 車内で恋話
チラリと彼を盗み見れば彼は瞼を閉じて美しい横顔を浮かべていた
(…………考えても解らんし……寝よう)
まだまだ騒がしい胸を抱えながらも私は夢に落ちたのだが真夜中にふと尿意に襲われ目覚める
窓から外を覗くと少し離れた位置にある公衆トイレは真っ暗で恐ろしい雰囲気が漂っていた
ぐっすり眠る彼を起こすのはかなり心苦しいがとてもじゃないが一人であの場所に行く勇気は無く彼をやんわり揺する
「……ごめんなさいイルミさん……トイレ着いてきて………」
「………ん………解った」
掠れた声で了承してくれた彼はすんなり着いてきてくれた
私は無事トイレを済ませて外で私を待つ彼の元へ急いだのだが其処に彼の姿は無かった
(…………イルミさんもトイレかな……?)
なんて思いながらも不安になり声を上げようとした時ポンポンと肩を叩かれ短い悲鳴を上げて振り返ると
私の視界に飛び込んだのは顔に長髪を垂らした彼の姿だった
真夜中のトイレの前で電灯に照らされて影を作る彼の姿はインパクトが大きくまさに貞子の様だった
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!」
私は悲鳴と共に腰を抜かして尻餅を付きへたり込んでしまった
唯一幸いだったのはトイレ後なので漏らすという事態は免れた事だけだ
「っ…………イルミさんほんまにやめて…………」
「そんなに驚くと思わなかった。ごめん、立てる?」
「……………腰抜けてもうて………」
「………怪我は?」
「無いです……」
髪型を戻した彼は妙に楽し気な表情を浮かべていて少々むかっ腹が立つが軽々私を抱き上げて車へ運びしっかりと寝かせられると肩迄布団を掛けてくれた優しさに文句は出なかった
其れよりも沸き上がる気恥ずかしさ
足腰が立たないので身を委ねるしか無いのだが逞しい腕の感覚なんかは意識しない様に努めた私は偉い
「………お手数おかけしました。イルミさんのせいやけど………」
「ごめん。もうしない」
「絶対ですよ。」
「うん」
その後再び眠りに落ちた私は朝まで目覚める事は無かった