第111章 車内で恋話
「イルミさんってお笑い好きですか?」
「此方に来てから初めて見たけど好きでも嫌いでも無いかな」
「私は大好きです!」
「そうだね」
ボトルに口を付けるとぐいっと傾けた彼は何処か色香を纏う
サラサラと落ちる長髪、伏せられた睫毛、僅かに濡れた唇を拭う長い指先さえも美しい
「…………何?」
無機質な声とは裏腹に淡白な印象の瞳はギラリと輝く
「………いえ………何も………」
早まる鼓動に言葉は途切れ慌てて缶に口を付けると唇の隙間から垂れた滴が肌を伝う
確か後部座席にティッシュがあった筈だ、と缶を置いたと同時にその手は大きな手に捕まる
驚きで彼を見遣れば彼は助手席に上体を乗り出す様に距離を詰めており随分と近い位置で目が合った
絡められた指はやんわり肌を撫でる様に動かされ擽ったいと感じて頬がカッと熱くなる
彼は実に悠長な所作で私の首筋に顔を近付けると滴の後を追う様に熱い舌が肌を伝った
艶かしい感覚にビクリと肩を震わせると彼はゆっくりと離れて行く
彼が何を思い突然その様な行動に出たのか解らず戸惑っていると髪をかき上げた彼はふぅ、と息を吐いた
「俺先に眠るよ。おやすみ」
「えっ!?………おやすみなさい…」
「何?一緒に寝る?」
「えっ…………と……………はい」
彼はウイスキーを一気に飲み干すと身軽に後部座席に移動して素早く布団にくるまった
………本当に彼の思考が解らない………
先程の行動には何の意図があったのか解らないが旅行の一件以降彼の表情に不適な眼差しが増えた様に思う
(……………あの質問の仕返し……?)
彼の後に布団にくるまる