第109章 同居人を迎える心構え
一体何処へ消えたのか………
辺りを見渡すが姿が見えずに焦りばかりが募る中頭上で嫌に響く羽音を拾う
「………っ!!!ぎゃああああああああああああああああッ!!!」
見上げた先には天井高く飛び立った奴の姿があった
確実に此方へ向かって来ている、と本能的に確信する
私の武器は手に持ったゴキジェットのみ
私は震え上がりながらも再度噴射する
奴との間合いは距離にして30センチ
(…………終わった………)
心は完全に敗北宣言を掲げて白旗を大きく振っていた
奴の死なば諸ともという無駄な大和魂に破れたのだ
と、絶望に染まっていた私だが
奴はあり得ない程のスピードで床に落ち、思わず短い悲鳴を上げる
直角に落下した奴だがまだ生きていた
突然の不可解な動きにたじろいでいると
「また何を騒いでるの」
玄関から此方を真っ直ぐ見据えた彼の姿があった
仕事帰りの為に作業着に身を包んだ彼は伸ばしていた左手をゆっくりと降ろす
再び床に視線を遣ると奴の背中には針が刺さっていたのだがまだ触角が動いていた
流石ゴキブリ、驚異の生命力だ
「あ、う…………ゴキブリが出たから戦ってました……」
「只の虫じゃん」
「違いますよ!!!昆虫じゃなくて害虫です!!!!」
「……害虫か」
彼は床を見下ろしながらポツリと呟いた